アーサーペディア
アーサー王大百科

妖姫モルガン

人物紹介

妖姫(妖精)モルガンはアーサーの、父を異とする姉。『マーリンの生涯』で、カムランの後でアーサーは「林檎の島」に運ばれたこと、その島にはモルガンを中心とする9人の姉妹(モロノエ、マゾエ、グリテン、グリトネア、クリトン、ティロノエ、ティティスなど)が住んでいることが、マーリンよりタリエシンに語られる。ここだけで見ても、モルガンがアーサーの姉であるという証拠はない。しかしモルガンには翼があって飛ぶことができ、姿かたちを変えることができると述べられている。マロリーでは、モルガンはイグレーヌとその最初の夫の間にできた子どもとしているが、「流布本マーリン」、『メルラン続編』の双方とも、アーサーの姪(ロットの娘)としている。彼女はグウィネヴィアの侍女となり、アーサーの甥グイオマールに恋するが、グウィネヴィアによってふたりの間は引き裂かれた。魔法は主としてマーリンから学ぶ。ウリエンと結婚してオワインを産む。愛人であったガリアのアコロンにアーサーを殺させようとするが失敗に終わる。ランスロットに恋し、捕まえるが、逃げられてしまう。マロリーでは、最後の戦いのあとアーサーを小船で運び去る女王たちのひとりとされている。

モルガンが女神モドロン(マトローナ)を原型とすることはほとんど確実と見てよかろう。モドロンは歴史上の人物であるレゲッドのウリエンと結婚し、オワインとモルフィズを産んだと考えられていた。という次第で、ギラルディス・カンブレンシスはモルガンのことをデア・ファンタスティカ(dea phantastica)(想像上の神)と呼んでいるほどである。

ふつう時代的にはアーサー王の治世の人とされるが、物語作者たちはモルガンが古代にも生きていたと考えていたようだ。たとえば『トロイア物語(Roman de Troie)』(1160年ごろ)ではトロイア戦争の時代に登場しているし、『ペルセフォレスト』ではブリテン王国の初期の時代に生きている。『サー・ガウェイン緑の騎士』の作者もモルガンがもとは神格をそなえていたことを知っていたらしく、「女神モルガン」の呼称でもって呼んでいる(第2452行)。モドロンという名がモルガンに変わったのはブルターニュでのことかもしれない。というのもブルターニュではモルガンもしくはマリ・モルガンと総称される水の妖精たちの存在が信じられていたからである。そればかりか特にダユットもしくはアエスという名のついた「モルガン」がユス市を破壊させたと信じられていたのである。モルガンがアイルランドの女神モリガンに由来することを証明することは今となっては不可能といわないまでも、きわめて困難である。

メッシナ海峡で見られる蜃気楼は、ときにモルガンと結びつけられることがある。イタリア語では「ファタ・モルガナ」、フランス語で「妖姫モルガンの城」と呼ばれている。イタリア系ロマンスではモルガンに娘がいることになっている。プルチェラ・ガイアと呼ばれ、ガウェインの恋人である。アリオストの『狂乱のオルランド』では、モルガンにアルチナ、ロジスティラというふたりの妹がいる。詩人トルクァート・タッソーの作品では、モルガンにモルガネッタ、ニヴェッタ、カルヴィリアという3人の娘が与えられている。『メルリーノ(マーリン)の生涯』にはモルガンがティンタジェル公爵の私生児であると述べられており、また『リ・ジュ・アダン』(13世紀)ではモルガンにはマグローレ、アルシルという名の侍女がいるとされている。

異説

  1. ティンタジェル公爵の私生児。こちらは「妖姫モルガン」とは別人で、ネントレスと結婚した。
  2. アーサーの主治医はモルガン・ティドと呼ばれた。
  3. ロフ・ド・ボアンの『プティ・ブリュ』では、「黒いモルガン」はアーサーの息子。
  4. モルガン・フリッフはマーリンの父の名である。

参照

地上の楽園」「13の宝物

図説アーサー王伝説事典

索引

協力

  • 原書房
  • 東京大学大学院
    総合文化研究科 教授
    山本史郎