アーサーペディア
アーサー王大百科

湖の姫

概要

諸々のアーサー王伝説を集めた本をざっと眺めれば、湖の姫はひとりではなく、何人かいることがわかる。『メルラン続編』の物語で最初に出てくるのは、アーサーエクスカリバーを献上し、ひきかえに望みのものを所望する女性である。のちになってこの女性は2本の剣を持つ騎士バリンによって無惨にも首をはねられてしまう。ということは、もっとあとの話に出てくる姫とは別人ということになる。

つぎに、子供のサー・ランスロットを誘拐した湖の姫がいる。姫は子供を、湖底の魔法の国で育てあげ、騎士道の技と精神を教えるのである(『散文ランスロット』)。この姫は、ランスロットを育てて魔法の指輪を与えた妖精としてクレティアン・ドゥ・トロワが描いている女性と同一人物である。

第3に、ニニアン、ヴィヴィアン、ニムエなどさまざまの名前で呼ばれる湖の姫がいる。この人物はマーリンをだまして、魔法をかけてしまう(『メルラン物語』、『メルラン続編』など)。マーリンを生きたまま墓に封じこめてしまったあと、この女性は、アーサーに対して「保護する魔法使い」というマーリンが果たしていた役割をひきつぎ、ただちに、姉の妖姫モルガンの悪だくみからアーサー王を救うため、急いでかけつける。

最後に、カムランの戦闘のあとで瀕死のアーサーを助けあげ、ともにアヴァロン島めざして船出する女性たちがいる。

これらは、ケルトの物語のさまざまな要素が入り混じり重複して存在することの反映である。このような多様な要素が集まってひとりのまとまった人物になりえていないのは、当然といえば当然である。

図説アーサー王伝説事典

索引

協力

  • 原書房
  • 東京大学大学院
    総合文化研究科 教授
    山本史郎